プチ連載小説「陰陽仙華」その52
「炎月、桜鈴の守護を頼みます。私は・・・もう一人、呼びますか」
行実は懐からまたひとつ式神符を取り出すと、呪を唱えて新たな式神を召喚した。
直垂に身を包んだ少年が、ふわりと式神符から現れる。腰には太刀が下げられていた。
整った顔立ちに少し眠そうな気だるさを纏ったその様は、どこか神秘的なものを感じさせる。
「行実様、敵はどこですか?」
「あちらですよ、朧(おぼろ)。あの舞扇を手にした女性です」
朧と呼ばれた少年は、空哉と戦っている針永姫を見るなり、眉をひそめた。
「見た目を綺麗に繕っていても、性格の悪さがにじみ出てる。あれはだめですね」
何気なく口にした朧の呟きが聞こえたのだろう、針永姫が怒りに顔を歪ませる。
細い目がきりきりと吊り上がり、口元からも牙を剥き出して黒い炎を吐いた。
「わらわはこの世で一番美しいのじゃ!生意気な小僧め、たっぷり苦しませてから殺してやるわ!」