プチ連載小説「陰陽仙華」その43
やがて牛車は、ごとりと音を立てて止まる。外から狸政の声がした。
「行実様、到着いたしました。山から何やら良からぬ気配がいたします」
行実は御簾を上げて外へ出た。日はかなり傾いてきており、山中を歩くうちに夜になってしまうだろう。
あやかしの主たる活動時間帯は夜間なので、歩きにくい山中といえど行かないわけにはいかないのだ。
灯りと気配探知のために、今日も炎月を連れてきている。式神符を取り出し、さっそく召喚することにした。
炎月が現れ炎を灯火のように2つ、3つ宙に浮かべる。これで山歩きの支度は整った。
「では、針永姫さんとやらに会いにいきましょうか」
「行実様、ご武運をお祈りしています。炎月、行実様の事を頼んだぞ」