プチ連載小説「陰陽仙華」その44
山中に分け入ると、生い茂った草木のためさらに辺りは暗さを増したようだ。夜の闇は確実にすぐそばまで迫っていた。
「道は一応ありますが、これは少々難儀するかもしれませんね」
行実がそう呟くと、懐の中で微かに式神符が震えた。おや、と思って取り出してみれば、震えていたのは木精の符であった。
「桜鈴、どうかしましたか」
符から桜の精・桜鈴を召喚する。いつもの桜色の小袖に身を包んだ桜鈴が、すうと静かに現れ出でた。
「お困りのようでしたので。私が山の木々たちに話を聞きながら、道案内を務めましょう」
「それは助かります。炎月は、周囲の気配を警戒しながら彼女の後を進んでください」
「御意」