プチ連載小説「陰陽仙華」その39
「ですが、あなたは木精。ここから動けないのでは?」
「無論本体は動けませんが、この姿であれば大丈夫。わりと気軽に散歩に出たりもするんですよ」
ふふっと女性が笑みをこぼす。始めて見せる表情であったが、温かで魅力的なその笑顔は行実に好ましい感情をもたらした。
「わたしの名は桜鈴。社の裏手にある桜の精です。今後ともよろしくお願いしますね」
桜の精・桜鈴の姿がふっとかき消え、一枚の式神符がひらりと行実の目の前に落ちてきた。
それを掴んで懐にしまうと、社の裏手へまわりそこにあるという桜の木を確認する。
古く立派な桜が月明かりの下で、ひらひらと花びらを風に遊ばせていた。
行実は良い酒で酔った時のような、夢見心地の高揚感に包まれながら桜の木をうっとりと見つめた。