プチ連載小説「陰陽仙華」その53
「怒ってばかりいると、顔の小じわが増えちゃうよ。あと、手元も狂う」
怒りに任せ放たれた針を、ひょいとかわして朧がさらに針永姫を煽った。
腰に下げた太刀をすらりと抜き放つと、目にもとまらぬ速さで針永姫の腕を斬り飛ばす。
「この程度の煽りで隙を見せるなんて、大したことないね。修行して得た力じゃないから、当然か」
「腕一本斬ったくらいで図に乗るなよ、小僧。わらわの力は無尽蔵じゃ、針を欲しがる愚か者はいくらでもおるからな」
新しい腕を即座に再生させ、針永姫が笑う。斬られて地に落ちたはずの腕も動き、朧の首に取り付いて爪を立てた。
「くっ!!」
「烏修法・迅風!」
腕を引きはがそうと格闘する朧の元へ、空哉が駆け付け技を繰り出す。空哉の操る風は、針永姫の腕だけをばらばらに切り刻んで吹き散らした。
「くはっ!はぁ、はぁ・・・空哉さん、ありがとうございます」
「油断禁物だ、朧。あの女、おそらくまだ力を隠しているぞ」
「ふふん、烏のほうは少しは知恵が回るようじゃの。そうとも、わらわが他のあやかしに貸し付けている力を全て回収すれば・・・どうなると思う?」
針永姫がにたり、と嫌な笑みを浮かべる。その瞬間、ぞわぞわする妖気が濃さと量を増して部屋中を満たした。