プチ連載小説「陰陽仙華」その56
行実がそう告げると、針永姫は一瞬愕然とした表情を見せた。しかしすぐに気を取り直して、畳んだ舞扇をびしりと突き付けてくる。
「だから何だというのじゃ。長きに渡り蓄えたわらわの力があれば、お前たちなど恐るるに足りぬわ。陰陽師さえ倒してしまえば小賢しい山の木精どもも、わらわに手出しできまいて」
針永姫は大きな針の槍を、今度は三本出現させる。一本は空哉に、また一本は朧に、最後の一本は行実に向かって突き進んできた。
「はあっ!」
空哉は風を使って槍の威力を削ぎ、千斬鋼で風の刃による斬撃を叩き込む。朧は太刀を水平に構え、向かってくる槍をじっと見据えた。
「瞬花映月」
銀の光がきらりと踊る。優れた舞い手のような華麗さで太刀が閃き、槍を一刀両断にした。
行実へと向かった槍は、進み出た桜鈴によって防がれる。爆発的に伸びた木の枝が、しっかりと槍を絡めとって動きを封じたのだ。
「これは私だけの力ではありません、山の皆の怒りです」
ぎしりぎしりと軋んだ槍は、やがて粉々にへし折られた。針永姫がへたり込む。
「あり得ぬ・・・強く美しい、このわらわが・・・」
「さあ、もうそろそろ終わりにしましょう」