プチ連載小説「陰陽仙華」その55
「桜鈴、毒はもう大丈夫なんですか。それと、準備とは」
「山の木精たち皆が力を貸してくれたので、毒は抜けました。そして彼らは、あの人と力の源である針たちとの繋がりを断ち切ってくれています」
桜鈴の言葉を聞いて、行実は状況を素早く理解した。繋がりが断たれているという事は、あやかしたちに配った針から力を吸うことができないという事だ。
上を向けば、天井から降っていた針の雨はいつの間にか止んでいた。針永姫は今自身が持っている力のみで戦うしかない状況になっているはず。
「空哉!雨は止みました。彼女は今、針から力を補給することができません」
空哉は広げていた風の傘を解除し、再び針永姫への攻撃に移る。針の槍と戦っていた朧の斬撃に、風で威力をかさ増しすると槍はあっさり砕けて散った。
「馬鹿な!なぜ、なぜ力が送られてこぬのじゃ!」
動揺してわなわなと舞扇を握りしめる針永姫に、桜鈴が語り掛ける。
「山の皆は、あなたの振る舞いにとても迷惑していました。邪気を集めて山を汚し、静かな暮らしを脅かすあなたを排除するために、力を貸してくれましたよ」
行実は地に手を当て、地脈の動きを探っていた。外からこの場所へと向かってくる力の気配はある。が、山全体がそれを拒絶しせき止めているのがわかった。
「あなたは地脈を通じて力の供給を受けていたようですが、今それは山の力によってすべてせき止められていますね。使えるのは、自身の力のみという事になります」